松木の森のものがたり


 山と心に木を植える

Matsukinomori_2

〝山と心に木を植えよう.〝

足尾ふるさとの森づくり

 今からそれほど遠くない昔、このあたりには古くから続く豊かな村里がありました。当時足尾でもっとも大きな村の一つ、松木という村です。今では家の跡すら残っていませんが、江戸時代後期の記録では三七戸一七〇人もの村人が支え合って生活をしていたといいます。小麦、豆をはじめとする肥沃な共同の畑があり、養蚕が盛んで、奥深い森の中にある恵まれた土地であったそうです。

 この村の生活が一変するのは、足尾銅山が近代的な鉱山として本格的に稼動しはじめて、わずか数年後のことでした。もともと銅山の活動には大量の木材が必要で、足尾の山々では度重なる樹木の伐採が行われていました。製錬所から放出された亜硫酸ガスによる煙害、偶発した山火事の被害も重なり、森は衰退の一途をたどります。やがて木々を失った山からは土壌が流れ出し、固い岩盤だけが骨のように残る無残な姿に変わり果てていきました。

 その影響は、農産物の不作、蚕の餌である桑の葉、その桑の木の枯死という形で、村を直撃します。周囲の森も例外ではありませんでした。こうして、豊かだったころには誰も想像もつかない理由で、村はその歴史を閉じました。村人は当時のお金四万円で示談し、村を去って行きました。

 森はあらゆる生命にとってのゆりかごであると言われています。それほど大切な森ですが、一度失われると回復には数百年という長い年月が必要なのです。しかし、少しでも早く回復するために人々が知恵を出し、力を貸すことはできます。私たちは、この松木村のあった場所で、自然と歴史を学びつつ、土地本来の木々を植えていく活動をしています。

 私たちの願いは、かつて村を支えてきた自然を取り戻し、足尾の森が再び豊かな恵みをもたらしてくれることです。そして、公害の原点といわれているこの地を、森と生きる生命の地に蘇らせていきたいと願い、山と心に木を植え続けています。

  • 二〇〇九年五月三〇日
  • 森びとプロジェクト